工場で働くとき、BGMは必要?その効果とは
生産性の向上や職場環境の改善を目的として、BGMを導入する工場は多くあります。BGMは生産性だけでなく、働く作業員の心理的な健康にも影響するため、導入するメリットは大きいといえるでしょう。
しかし、仕事場に音楽が流れることに対して「BGMがあると集中力が下がるのではないか」「生産性の低下につながるのではないか」などの懸念を持つ人もまだまだ多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、工場で働く場合のBGMの必要性の有無について解説するとともに、その効果について詳しく解説します。
目次
工場でBGMが必要な理由
工場などのルーチンワークにおいて、BGMはプラスの効果を期待できます。生産性の向上などをもたらすほか、職場環境の改善やストレスの低減などの面においても、工場で働く作業員にとって大きなプラスの影響を与えることがわかっています。
その効果と範囲の広さを考えた場合、影響は決して小さくなく、BGMは工場に必須と言っても過言ではありません。ここではBGMを導入した場合に生み出される具体的な効果について、詳しく紹介していきます。
集中力が高まる
BGMの効果としてもっとも期待できるのが、集中力の向上です。とくに繰り返しの多いライン作業においては、BGMが意識の集中に対しておよぼす効果は高く、適切に選曲されたBGMのもとでは、生産性が上がることがさまざまな研究結果で示されています。
この集中力の向上をあらわした代表的な論文が、2007年にアメリカのスタンフォード大学で実施された実験によるものです。この実験では、オフィスでのBGMと労働生産性の関連性が示されており、音楽が集中力に与える効果について実験結果から述べられています。
またこの集中力に与える効果には、BGMの「マスキング効果」が影響していると言われています。マスキング効果とは、BGMによって周囲の雑音がかき消される効果のことです。
集中を妨げる音が耳に入ってこないため、目の前にある自分の作業に深く集中しやすくなります。
リラクゼーション効果が期待できる
BGMがかかることで、作業員に対するリラクゼーション効果も期待できます。BGMには副交感神経を刺激する効果が認められており、ストレスホルモンが減り、リラックス状態になることがわかっています。
この効果は作業員のストレスを軽減させるだけではなく、集中力を高める効果ももたらしてくれます。自然な集中力の向上はメンタル的な負担を低く抑えつつも、ミスの減少にもつながります。
リラックスできる職場の雰囲気が生まれることで、より作業員同士のコミュニケーションが取りやすく、居心地のよい職場に生まれ変わるでしょう。離職率の低減や働きやすい環境づくりに効果が期待できます。
関連付けによるモチベーションアップが期待できる
BGMによる生産性の向上には、BGMと行動との心理的な関連付けが影響しています。作業時にBGMがかかり続けることによって、BGMと作業が結びつき、BGMを聞くと無意識のうちに作業に対する姿勢が作られるようになります。BGMがモチベーションのトリガーとなることで、より生産性が高まるでしょう。
またBGMは、無意識のうちに心理的な影響を与えることもわかっています。視覚の印象は聴覚からの印象に大きく左右されるため、BGMを効果的に用いることで、モチベーションを促進できます。
職場の一体感が醸成できる
音楽は職場の一体感を強くする効果を持っています。いつも流れているお馴染みの曲があれば、その印象は職場と強く結びつきます。ほかの労働者との会話が少なくなりやすい工場での勤務では、組織への所属感を強めるものになるでしょう。
またBGMとは性格がやや異なりますが、勤務開始前に職場で行う体操なども、音楽のひとつとして職場の一体感を強めてくれるものです。もちろん集中力の向上や眠気を覚ます効果も期待でき、生産性にも大きく寄与します。
BGMの効果を示す科学的な調査や実験結果
ここまでで紹介してきた効果は、印象論だけで語られているものではありません。BGMの効果を測定するための実験は国内外で古くから行われており、前述の効果を裏付ける結果が実証されています。
たとえばスティーブンス工科大学の研究によると、職場に音楽を流すことで欠勤や早退が大幅に減少したことがわかっています。欠勤では88%が、早退では53%もが減少するなど、大幅な改善が見られています。
また英国産業衛生調査局による研究でも、工場にBGMを流すことで生産性が最大で11%近くも上昇したことが報告されています。
国内では、株式会社USENが労働時間を客観的に評価できる従業員数50名以上のIT関連企業の15事業所を対象として実施した調査で、BGMを流しっぱなしにすることで、残業時間の削減に効果があることがわかっています。(参考:音楽(BGM)の残業時間削減効果に関する研究)
BGMはそもそも工場のためのもの
歴史を紐解いてみると、BGMはそもそも工場での労働のために生み出されたものであることがわかります。BGMの始まりは、1934年にアメリカのミューザック社が発売したオフィス向けの環境音楽レコードと言われています。
また第二次世界大戦中のイギリスでは、勤労動員された工場労働者の疲労を軽減するためにBBCの音楽番組が製作されるなど、音楽の持つ効果を労働の現場に取り入れてきました。作業効率を上げる取り組みとして有用であるからこそ、今も多くの工場でBGMが導入されているのでしょう。
ライン作業におすすめなBGMのジャンル
工場でBGMを流すといっても、どんな音楽でもよいわけではありません。ここではライン作業におすすめの音楽ジャンルについて紹介します。
歌詞のない音楽
工場のライン作業は反復が多く、一定の集中力を持続することが求められます。このような場合は、人の声の入っていない音楽や歌詞のない音楽がおすすめです。人間は人の声が耳に入ってくると、無意識にその内容に耳を傾けてしまう習慣があります。
工場のように一定のテンポで反復的な動作を繰り返すような作業においては、集中力が低下してしまい、ミスやケガなどに繋がってしまうことがあります。工場で流すBGMとしては、クラシック音楽のなかでもオーケストラや器楽曲がおすすめです。
また大衆音楽の場合でも、ボーカルが含まれないインストゥルメンタルミュージックなどがおすすめです。
テンポの速さは作業内容に応じたものがおすすめ
BGMのテンポの速さは作業のスピード感に影響を与えますが、速すぎる音楽だけを集中的に選ぶのは禁物です。生産性が高まる一方で、作業員はBGMのテンポに振り回されることになり、疲労感の蓄積に繋がってしまうケースがあります。
短期的な成果の上昇が見込めても、ミスや事故の増加につながっては意味がありません。職場のテンポはスローテンポやミドルテンポのものを織り交ぜるようにし、飽きずに、作業の丁寧さが損なわれないように工夫する必要があるでしょう。
工場向けBGMでは労働者の状態に合わせて音楽を管理
前述のミューザックのような工場向けの音楽では、1日のなかでの疲労度の変化に合わせて音楽の刺激度を変化させるという手法が取り入れられています。
また作業の集中力を維持できるよう、音楽の演奏と無音を15分毎に繰り返すなど、しっかりと時間を管理されているものもあります。これまでのBGMを使った効果の検証のもとで調整されているため、より効率的に無駄なく高いBGM効果を得られます。
BGMの導入による成功事例
BGMを導入による成功事例は数多く報告されています。前述のように、労働環境におけるBGMの効果の研究は海外で始まったものですが、日本の工場でも取り入れられ、高い効果を得ています。
たとえばかつてのナショナル(現パナソニック)の工場では、1958年にBGMの放送が導入されました。この効果は非常に高く、ストレスによって診療所にかかる人数が3割も減少したことで知られています。
またサービス自体の人気も高く、3年後の調査では、作業員の97%がBGMの継続を希望したのです。
まとめ
職場で音楽が流れると聞くと、集中力や作業能率が阻害されるように感じることもあります。しかし本記事で紹介したように、工場のライン作業などにおいては、BGMは非常に有効です。
またBGMは単純な作業能率だけに終わる話ではなく、作業員がより快適に働くための職場環境の話にもつながります。工場は普段、外部の目に付きにくい職場であるからこそ、BGMを効果的に使った働きやすい職場を目指しましょう。